カスタマーサクセスにおけるハイタッチとは?ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの違いやハイタッチ実施のポイントまで解説します!
近年、多くの業種で市場が成熟し、商品やサービスの一般化が進むことで、企業が新規顧客を獲得することがこれまで以上に難しくなっています。そこで重要になるのが、既存顧客との関係性を強化することです。そのための施策として多くの企業がカスタマーサクセスに注力しています。そこで本稿では、カスタマーサクセスにおいて効果的な手法である、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチについて、概要やポイント、実施方法を紹介します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、顧客を成功に導き、自社の利益を最大化するために取り組む活動や役割のことを指します。カスタマーサクセスは、ここ数年SaaS企業やサブスクリプション型のビジネスが急増した事で注目を集めています。
従来の買い切り型のビジネスモデルは『購入するまでが勝負』だったのに対して、サブスクリプション型のビジネスモデルは『購入した後、いかに継続して利用してもらうかが勝負』となり、カスタマーサクセスが重要視されるようになりました。
買い切り型のビジネスモデルでは初めに一括で支払いをすることが多いため、契約後に生じたトラブルはカスタマーサポートという部門で対処しています。一方、サブスクリプション型のビジネスモデルでは、顧客にサービスやプロダクトを使い続けてもらうために能動的に働きかけ、成功をサポートしていく必要があります。
新しい分野であるカスタマーサクセスの取り組みは、成果の計測が難しかったり、成果を出しにくかったりと難易度が高い反面、丁寧に取り組めばビジネスを優位に組み立てられます。
カスタマーサクセスは、顧客を成功に導いて顧客満足度を上げ、LTV(Life Time Value)を最大化することを目的の一つとしています。LTVは顧客生涯価値とも呼ばれ、企業が顧客を獲得・維持するための戦略的な意思決定を助ける指標です。LTVを上げるには、顧客の継続率を高めたり、顧客による購入額を増やしたりするための戦略が必要になります。そのため、商品やサービスの導入時から継続して顧客に伴走し、長期的な関係を築いていく必要があります。
LTVは、特に長期的な費用対効果を測る上で大切な指標です。新規顧客を獲得するには既存顧客を維持するより多くのコストがかかります。そのため、既存顧客を満足させるだけでなく、さらなる購入を促進することが重要です。受け身ではなく積極的な働きかけを行うカスタマーサクセスでは、LTVが重要な指標とされます。
LTVの視点も持つことは、『顧客企業に対して、継続利用のためにどれぐらいのコストをかけるのか』を考えることに繋がります。そこで、顧客企業をLTVの観点から分類する方法が『タッチモデル』であり、この方法では顧客を『ハイタッチ』『ロータッチ』『テックタッチ』の3種に分類します。
タッチモデルとは
カスタマーサクセスの『タッチモデル』とは、想定されるLTVによって顧客を3段階に分け、各段階に合わせてアプローチ方法やリソースの分配などを変える手法のことです。
タッチモデルの目的は、顧客を3段階に分けて、アプローチの方法をパターン化することで、限られたリソースの中でも効率的に顧客の成功を支援することです。
ハイタッチとは、LTVが高い顧客や影響力の大きい顧客などに対し、担当者による『1対1』の手厚い対応を行うアプローチです。ハイタッチの例として、対面で行うミーティングや個別勉強会、1対1で行うメールやWeb会議、経営層への情報共有などがあります。
ハイタッチ層は顧客企業を代表する存在のため、カスタマーサクセスのコミットが自社の成長に直結します。専任担当者などのリソースをかけて、変化する状況に臨機応変に対応しながら最適なサポートを提供できるよう努めます。また、ハイタッチのアプローチを通じて顧客のニーズや課題を深く理解でき、結果的にカスタマーサクセス全体の精度向上にもつながります。
ロータッチとは、LTVが中程度の顧客に対して、担当者による『1対複数』をメインとした対応を行うアプローチの事です。ロータッチの例として、契約企業を集めたセミナーや、一斉配信メールなどがあります。
ロータッチ層は、ハイタッチ層程ではないものの、収益に影響を与える存在です。そのためハイタッチほどリソースは割けずとも、人がサポートを行います。1人の担当者が複数の顧客を担当するため、ハイタッチの要素(個別対応)とテックタッチの要素(システムによる活用支援)を掛け合わせた効率的なサポートが求められます。
最後にテックタッチです。テックタッチとは、ハイタッチ、ロータッチ層よりLTVが’低い層に対して、デジタルツールを駆使して顧客対応を行うアプローチです。テックタッチの例として、WebサイトのコンテンツやFAQ、チャットボット、メールマガジン、ユーザーコミュニティなどが挙げられます。
LTVは低くても、ハイタッチ・ロータッチ層より顧客の数が多いのが一般的です。顧客に担当者がつかないテックタッチを成功させるには、使い勝手が良く、顧客を自己解決に導くシステム設計が重要です。操作がわかりにくいと、サポートセンターへの問い合わせにつながり、ユーザー体験が損なわれると共に、有人対応が必要になるからです。顧客を深く理解し、要望や課題を予測した上で、継続的にツールを改善することが求められます。
最後に第4の方法として、自社から顧客へのアプローチだけではなく、顧客から自社へのフィードバックや、顧客同士が影響を与え合うことで機能する『コミュニティタッチ』を紹介します。
コミュニティタッチは、価値を共創する関係の構築と言えます。顧客同士が関わりノウハウを共有しあう事で、顧客の課題が解決したり、顧客から自社に適切なフィードバックが送られる事で、プロダクトの改善が起こり、顧客全体の成功の支援につながったりすることが期待されます。
具体的な施策としては、顧客企業専用の会員制サイトを制作する、SNSやチャットツールを用いたユーザーコミュニティを運営する、ユーザー交流会などのイベントを行うことが考えられます。
コミュニティタッチは、自社と顧客の繋がりだけでなく、顧客同士の繋がりを深めることで、コミュニティ全体のノウハウも深まり、結果的に顧客の成功に繋がる取り組みになります。カスタマーサクセスにおいて、コミュニティタッチの考え方は他の3つの方法と共存するものだと言えるでしょう。
カスタマーサクセスにおけるハイタッチとは?
カスタマーサクセス活動におけるハイタッチとは、大手企業などの大口顧客と1対1で個別対応し、きめ細やかな対応を行う戦略のことです。ハイタッチは高いLTVが見込める顧客のため、カスタマーサクセス活動では、ハイタッチ戦略をいかに効率的に行うかが重要なポイントとなります。
カスタマーサクセスのハイタッチにはどのような施策があるのでしょうか。ここからは、ハイタッチの代表的な施策を紹介します。
オンボーディングプログラム
オンボーディングプログラムとは、製品導入直後に支援を実施する方法です。顧客が製品を導入した直後の段階は、『導入期』や『オンボーディングフェーズ』と呼ばれ、初期設定を行ったり、各種機能に慣れる必要があり、悩みや疑問が生じやすい傾向があります。
また契約直後は製品を利用する意欲が高いため、顧客に利用を定着化させるために最も適したタイミングであり、顧客へのサポートが必要な段階です。顧客の不満が溜まると、解約につながる可能性も高まります。特に、操作や機能が複雑な製品は導入期で十分にフォローを行い、製品に対するリテラシーや成熟度を向上させることが重要です。
ハンズオンセミナーやWeb会議を開き、顧客の課題に沿って解決策を提示したり、他社の導入事例の紹介や導入代行を実施したりするのが良いでしょう。
成功指標や目的設定のサポート
顧客に対してヒアリングを行い、ビジネスにおける成功指標や目標を設定します。
カスタマーサクセスは、顧客のニーズはもちろんのこと、導入後の利用状況や顧客満足、顧客へのヒアリング情報など、あらゆる情報を継続的につかみ、顧客の目的や課題を理解することが重要です。
KGIやKPIの設定、ロードマップの作成、ロードマップ上でのマイルストーン設置などの方法が代表的です。顧客が自社製品を導入したとしても、目的や目標が明確になっていないケースもあります。目的や目標が曖昧な状態では、適切な効果検証ができず、顧客に自社製品の価値を実感してもらうのが難しくなります。ときには他社の事例をあげつつ、顧客と協力しながら基準値を定めると良いでしょう。
定例ミーティング
製品の利用が進むと、製品の活用範囲が広がり、課題が変化することがあります。そこで、顧客の状態を常に理解した上で、解決策を提案するなど顧客に寄り添ったサポートが必要になります。個別の定例ミーティングは、製品の使用状況や新たな課題を把握するのに効果的です。自社製品が顧客の組織へと定着するまでの進捗状況を確認しながら、製品に対するリテラシーや習熟度の変化を探ります。
顧客がまだ製品を使いこなせていない状態であれば、引き続きハイタッチの施策を実施すると良いでしょう。顧客が製品の使い方に慣れ、定着化に向けて順調に進行している場合は、ハイタッチからテックタッチへと徐々に移行し、課題の自己解決を促すのも方法のひとつです。
実際にサービスを運用する現場担当者とコンタクトをとる
BtoBビジネスでは、購買担当者と、実際にサービスを運用する担当者が異なるケースもあります。購買担当者と運用担当者との間に、現状の課題に対する認識のズレが生じていることもあるのです。このような状態でいくら購買担当者に支援を行っても、肝心の運用担当者が抱えている課題は解消されません。その状態が続くと、自社製品が本来の強みを発揮できなくなります。
運用担当者の意見もヒアリングすることで、製品を利用する上で生じるリアルな悩みや疑問を把握できます。技術的な課題や悩みを抱えていることも想定し、自社のテクニカルサポート担当者に同行してもらうのも良いでしょう。
QBR(四半期ごとのビジネスレビュー)
QBRは、顧客が成果指標や目標を達成したかどうかを確認する上で効果的な方法です。
四半期ごとに顧客の状況や成果を確認し、必要に応じてロードマップの調整や新たな戦略立案を行います。QBRを実施する際は、自社製品を利用することで得られる利益や恩恵を顧客に再認識してもらうことが重要です。
事前に設定したKPIが一定水準を超えた顧客は、既に製品を利用する中で効果を実感しているはずです。その状態になったタイミングで、顧客の競合他社が得ている一般的な成果や成果達成状況といった比較的な視点を提示することで、顧客が得られる利益や恩恵を客観的に理解することができます。顧客が自らの利益や恩恵を強く意識すれば、アップセルやクロスセル、顧客継続率の向上に繋がるでしょう。
なぜカスタマーサクセスの大半はハイタッチから始まるのか?
カスタマーサクセスにおいて、なぜハイタッチ戦略が重要とされるのでしょうか。その理由を解説します。
伝えたい情報を伝えたい相手に確実に届けられる
ロータッチやテックタッチの場合、メールやセミナーなどを利用して集団アプローチを行います。これらの方法は最小限の作業量で多くの顧客へアプローチを行うことが可能ですが、必ずしも提供した情報を相手が確認しているとは限らず、スピード感に劣ります。
ハイタッチの場合、1対1で個別に情報を提供するため、必要な情報を確実に届けられます。ハイタッチ戦略では相手のニーズや課題に応じた情報を提供できるため、個々の対応によって相手に特別感を与えられる点でカスタマーサクセスの概念と一致しています。
直接、顧客の要望を聞くことができる
1対1での対応が基本となるハイタッチ戦略では、情報の提供と同時に、直接顧客の要望を受け取ることができます。提供した情報が相手のニーズに合致していたのかどうか、満足できる内容だったかを、その場ですぐに確認できます。もし方向性が間違っている場合は、改善しアプローチの最適化を目指せます。自分たちの手法が効果的かどうか判断しやすいため、事業の立ち上げ初期で特におすすめの戦略と言えます。
顧客と関係性を深めることができる
1対1できめ細かい対応を行うと、顧客との関係性がより深められます。強固な信頼関係を築くことができると、担当者だけではなく、上長や役員などの上層部へのコンタクトも取りやすくなります。上長や役員は契約の決定権を持つため、トップへのパイプが繋がれば、よりスムーズな契約、成約が可能になり、アップセルやクロスセルの機会創出にも繋がりやすくなります。また、顧客との関係性が深まっていくことで、顧客離れが起こりにくいという利点もあります。
ハイタッチ実施のポイント
ハイタッチ戦略は、重要度の高い顧客を確保するための重要な施策です。ハイタッチの支援に取り組む上で、注意すべきポイントを解説します。
顧客を分類することで、状況に合わせた対応を行う
顧客が本当に求めるサポートを提供するには、顧客ごとの状況を正確に把握することが求められます。顧客を分類したら、あとはタッチモデルごとに均一の支援を行えば良いという訳ではありません。
大手企業だからといってハイタッチでの支援が100%必要かというと、顧客のリソースにゆとりがあり、担当者の知識や経験が豊富なためそこまで支援が必要ではないケースもあります。逆に、最小プランを契約した中小企業だからテックタッチのみで良いかというと、担当者が1人しかおらず、知識や経験も少ないため、個別の支援が必要なケースもあります。この場合はハイタッチに準ずるような有償サポートを提案することで、顧客のニーズに応じたサポートができるようになるでしょう。
サービスを利用していく中で顧客の課題や目的、ゴールは変化していきます。顧客それぞれの状況を把握することで、適切なタイミングで必要な支援を行うことがカスタマーサクセスの役割と言えるでしょう。
自社のリソースに合わせた対応を行う
ハイタッチ層向けの支援は、見込まれる効果も大きいことから、時間も労力も要します。カスタマーサクセスを行っていく際には、あらかじめ自社のリソースを明確にし、その範囲内での対応を行います。リソース確保の方法には、サポート内容の一部有償化や、外部への委託などがあります。現状のリソースやサポート内容が適切かどうか再確認するために、カスタマーサクセスで用いられる指標(オンボーディング、リテンション、KPIなど)を常に監視、分析することもリソースの最適化につながります。
また、ハイタッチ支援は顧客と直接コミュニケーションをとる機会が多く、担当者の裁量によって信頼関係を獲得しているケースも少なくありません。経験豊富な担当者のノウハウを社内で共有できる体制を整えて、仕組み化することで満足度の高いサポート体制を作れます。属人化を避け、自社内のリソースを最適化することで、質の高いサポートの提供を目指しましょう。
人材の育成、雇用
カスタマーサクセスは比較的新しい職種のため、人員が不足している上、職種へのイメージが確立できていない側面もあり、積極的な人材の育成や雇用が必要です。
ハイタッチモデルは、基本的に顧客と1対1のやりとりになるケースが多く、顧客とコミュニケーションをとる上で、より良い関係を構築しながら、顧客の状況を管理する力が求められます。コミュニケーション能力や洞察力を持った営業職の人材に対して、専門的な知識や分析力を習得できるように教育していくといった方法が考えられます。
カスタマーサクセスの本質を忘れないこと
ハイタッチ層への支援に注力するあまり、カスタマーサクセスの基本、本質を忘れないことも大切なポイントの一つです。タッチモデルは、顧客をグループ分けすることで効率的なサポートが行える反面、一つ一つの対応が単純作業になりやすいことがデメリットとして挙げられます。カスタマーサクセスに取り組む目的は、あくまで『顧客の成功』です。顧客が大手企業であったり、LTVが高かったりするなどの定量的な条件のみから、支援を全てハイタッチで行うと決め込むのではなく、顧客が求めている成功に対してこちらから提供するサポートが適切かどうか、試行錯誤することがカスタマーサクセスの本質と言えるでしょう。
ツールによる支援も活用する
ハイタッチの支援だからといって、全ての場面において必ず人による対応が必要という訳ではありません。本当にカスタマーサクセス担当者がメールを送ったかのように見せられるMAツールや、基本的な使用方法が誰にでもわかるチュートリアル機能などを活用することで、増え続ける顧客対応を効率化することができます。様々なツールを使うことで、サポートの工数を減らし、人が行うべき部分を明確にすることで、効果はより一層高くなり、全体のリソースを最適化できるはずです。
まとめ
カスタマーサクセス活動におけるハイタッチ戦略には、様々なメリットがあります。ただし、ハイタッチは、他のテックタッチに比べてリソースとコストがかかるため、セグメント分けを行った上で集中的かつ選択的な活動を行う必要があります。また、ハイタッチを実施した後は、チーム全体で結果を共有し、プロセスや支援内容をブラッシュアップを図っていくことが大切です。時間と共に変化する顧客の状況や目標に応じて、ハイタッチ以外のタッチモデルも効果的に取り入れ、顧客の成功のために取り組んでいきましょう。