カスタマーサクセスと営業の違いって?仕事内容やKPI・KGIの違いを解説!

カスタマーサクセス(CS)は、文字通り『顧客の成功』を支援する活動や職種を指します。顧客のビジネス目標達成や成長をサポートすることで、自社サービスの継続的な利用を促し、LTV(顧客生涯価値)を最大化することがミッションです。
日本でこの職種が本格的に普及したのは2010年代中盤以降ですが、近年ではSaaS企業を中心に、企業の成長に欠かせない重要なポジションとして広く認知されるようになりました。顧客の成功が自社の利益につながるという考え方に基づき、営業職が獲得した新規顧客を、その後も長期にわたってサポートするのがカスタマーサクセスの役割です。
カスタマーサクセス職が生まれた背景には、テクノロジーの発展によりSaaS(Software as a Service)企業を始めとしたスタートアップ企業の市場への参入障壁が下がり、市場の飽和が起きたことが挙げられます。顧客は数多くの選択肢から、必要とするタイミングで自由にサービスを契約や解約できるようになり、他社への乗り換えも容易になりました。その結果、契約後も積極的にアプローチし、継続的な関係を構築するカスタマーサクセス職が重要視されるようになったのです。
現在は、営業職が開拓した新規顧客の契約後に、カスタマーサクセスが顧客の成功を支援するといった連携がとられるケースが多いです。カスタマーサクセスの成功には、他部署との連携が欠かせません。本記事では、カスタマーサクセスと営業の違いを、仕事内容やKPI・KGIの違いから解説します。

カスタマーサクセスと営業の違いは『目的』にある

顧客とコミュニケーションをとる役割は共通しているカスタマーサクセス職と営業職ですが、活動の目的に大きな違いがあります。ここでは、カスタマーサクセスと営業の目的の違いを解説します。

カスタマーサクセスの目的

カスタマーサクセスは、顧客がビジネスの成功を得るために、自社の製品やサービスの導入・社内浸透のサポートを行います。カスタマーサクセスの活動によって、顧客の満足度を高め、製品やサービスの継続利用を促すことでLTV(ライフタイムバリュー)を最大化することが目的です。

営業の目的

新規顧客にアプローチし、自社の製品やサービスの価値を伝えて利用してもらうことで事業拡大を目指します。営業の目的は、製品やサービスの契約を獲得することです。

カスタマーサクセスと営業の違いはKGI・KPIにある

カスタマーサクセスと営業の目的の違いは前章で述べましたが、具体的にどんなKGI・KPIが設定されるのでしょうか。

カスタマーサクセスと営業の目的の違いは、具体的に設定されるKGI・KPIに表れます。
KGI(Key Goal Indicator)は、組織の最終的な目標を数値化した指標です。一方、KPI(Key Performance Indicators)は、そのKGIを達成するためのプロセスや活動を評価する中間指標を指します。
たとえるなら、KGIが『目的地』、KPIが『目的地へ向かうための通過点』です。
ここでは、カスタマーサクセスと営業それぞれのKGI・KPIの違いを解説します。

カスタマーサクセスのKGI・KPI

LTV(ライフタイムバリュー)

LTVは、『Life Time Value』の頭文字をとった略称です。『顧客生涯価値』と訳され、1回だけの取り引きではなく、継続的な取り引きを含めて顧客がもたらす利益全体を表します。LTVの向上は、カスタマーサクセスの最も重要なミッションであり、KGIに設定されやすい指標です。

チャーンレート(解約率)

チャーンレートは、チャーン=解約、レート=割合という意味で、合わせて解約率という意味で使われます。解約率は利益に直結する数字のため、解約を防ぐ活動もカスタマーサクセスが担う重要な役割です。
チャーンレートはKGI、KPIどちらにも設定される項目です。目標のチャーンレートを設定し、顧客へのアプローチを試みます。具体的には、顧客の行動データなどから解約に繋がる行動を炙り出し、個別支援したり、要望を汲み取って製品やサービスの改善をしたりといった方法で解約を防ぎます。

※チャーンレートを導き出す計算式※
ある一定の期間中に解約した顧客数÷当初の顧客数×100=チャーンレート率(%)

例えば、直近1ヶ月の解約した顧客数が10で、当初の総顧客数が500の場合、10÷500×100=2%がチャーンレートです。解約には、サービスの契約終了や退会に加え、有料会員から無料会員にダウングレードした場合や、契約しているアカウント数が減少した場合も含みます。

NPS(ネットプロモータースコア)

NPSは、『Net Promoter Score』の頭文字をとった略称です。顧客ロイヤルティを測る指標として用いられます。NPSは、企業への愛着や信頼を数値化したもので、主にアンケート調査で取得します。この結果によって、顧客が企業のファンであるか、それなりに満足しているか、すぐに解約しそうか、などロイヤルティの度合いが推測できます。NPSはKPIとして用いられます。
NPSでは、顧客に『この製品やサービスを周囲の人にどの程度おすすめできますか?』と質問します。回答は0〜10の点数制で、その結果が9〜10点と回答した顧客を『推奨者』、7〜8点を『中立者』、0〜6点を『批判者』として3つのセグメントに分類します。推奨者の割合から批判者の割合を引いて、NPSのスコアを導き出します。推奨者が多いほど、口コミの拡大やアップセル・クロスセルの可能性が高まると考えられます。

リテンションレート(継続率、定着率)

リテンションレートは、顧客を維持する割合、つまり継続率や定着率という意味で使われます。顧客を維持できているほど、リテンションレートが高くなります。リテンションレートが高まると、安定した利益が確保できることから、カスタマーサクセスのKPIとして用いられます。

※リテンションレートを導き出す計算式※
ある一定期間の継続顧客数÷新規顧客数×100=リテンション率(%)

例えば、直近1ヶ月の新規顧客数が250で、翌月も利用を継続した顧客数が50の場合は、50÷250×100=20となり、リテンション率は20%になります。

営業のKGI・KPI

新規契約売上

新規契約売上は営業の最も重要なKGIとして頻繁に用いられます。市場を分析し、自社の強みや弱み、現状を把握した上で、具体的な売上件数や金額の目標を設定します。ここで決定したKGIを達成するための戦略を、KPIに落とし込んでいきます。

新規契約数

新規契約数は文字通り、新たに獲得できた契約数のことで、一般的に営業のKPIとして用いられます。新規の契約獲得は、事業規模の拡大やサービスや製品のシェア拡大に欠かせない営業活動です。

商談数

契約に至る前には商談を行う場合があります。見込み顧客に対して、どれだけ商談を行ったか、という数も営業のKPIに設定されることが多いです。商談数を上げるために、インサイドセールスと呼ばれる電話やメール、チャットなどの非対面で顧客へアプローチする営業部隊と役割分担する場合もあります。

リード獲得数

リードとは、見込み顧客を指します。展示会やテレアポ、ダイレクトメール、CMなどのオフライン施策や、Web広告やSNS、メルマガなどのオンライン施策を活用し、見込み顧客の情報を収集します。効率的なリード獲得のためには、認知施策を担うマーケティング部門との連携が必須です。

利益率

​​利益率は営業でよく用いられるKPIの一つです。利益率とは、売上に対する利益の比率で、企業がどのくらいの利益を得られているのかを表します。営業利益は、売上から人件費や商品原価などを差し引いた金額です。利益率をKPIとして設定すると、人件費がかかりすぎている、商品原価が高いなどの問題点が明らかになり、改善に向けたアクションを行えます。

カスタマーサクセスと営業の違いは仕事内容にある

実際に、カスタマーサクセスと営業はどのような仕事をするのでしょうか。それぞれの仕事の内容と、その違いについて説明します。

カスタマーサクセスの仕事内容

カスタマーサクセスの仕事は多岐に渡ります。獲得した顧客のヒアリングから始まり、ビジネスの成功まで伴走し、更にアップセル・クロスセルの提案を行うなど、長期的な関係を築くことが重要です。

カスタマーサクセスフローの設計

カスタマーサクセスがどのように顧客に関わり、課題を解決に導いていくのかについて、フローを設計します。LTVの見込み度合いによってアプローチ方法を変えたり、適切な接触タイミングを検討したりしながら、カスタマーサクセスの効率的な活動を目指します。

利用マニュアル作成

製品やサービスを導入した顧客に対して利用マニュアルを準備しておくことで、スムーズな導入や社内浸透を実現できます。利用マニュアル作成の際はカスタマーサポートなどとも連携し、既存の顧客がつまずきやすいポイントを反映することで、より顧客目線で質の高いマニュアルを作成できます。

オンボーディング

顧客のLTVの見込み度合いによって、3つのアプローチに分類してオンボーディングを実施します。最もLTVの見込み度合いが高い顧客に対しては『ハイタッチ』と呼ばれる、1対1の個別対応をします。直接ヒアリングし、必要であれば導入支援や社内勉強会のサポートを提案します。
ハイタッチ層の次に見込み度合いの高い顧客に対しては『ロータッチ』と呼ばれる、1対複数人(複数社)に向けた支援をします。ある程度の人数を集めた勉強会や、活用事例のWebセミナーなどがそれにあたります。更に『テックタッチ』では、テクノロジーを活用し、工数をかけずに多くの顧客に向けた支援をします。主にヘルプページや動画マニュアル、メルマガなどで効率的に顧客にアプローチします。

利用データ分析

製品やサービスの利用データから、どの程度機能が利用されているか、どのような使われ方をしているかなどを分析し、顧客のビジネスの成功を実現できているかどうかを判断します。想定通りに活用されていない場合は、個別支援の場を設けたり勉強会の案内を送ったりしながら、状況に合わせてフォローします。

ヘルススコア作成

ヘルススコアとは、名前の通り、顧客の利用状況が健康かどうか、つまり理想的に製品やサービスを利用できているかどうかを見極める指標です。ヘルススコアのデータは、契約アカウント数、ログイン回数、NPS、セミナー参加頻度、メルマガ開封率など、業種や企業によって様々な数値を用います。
点数に応じてカスタマーサクセスがどのような対応をするかあらかじめ設計しておきます。ヘルススコアを作成することで、利用意欲が低下している顧客に対して解約を防ぐフォローをいち早くできるメリットがあります。

アップセル・クロスセル

サービスを通して顧客のビジネスの成功を実現した後も、更なる業務改善やより大きな目標の達成に向けてサービスのアップグレードや契約アカウント数の増加を検討するでしょう。
カスタマーサクセスは、『より単価の高い製品やサービスを契約・購入してもらう』ためのアップセルや、『特定の製品やサービスを契約済みの顧客に対し、関連するサービスを追加で契約・購入してもらう』クロスセルを提案します。アップセル・クロスセルは、顧客数を増やすことなく利益を上げられるので効率の良い営業手法です。

営業の仕事内容

営業の仕事は、会社の窓口として顧客と接点を持ち、契約獲得を目指すことです。近年はマーケティングやインサイドセールスとの分業体制が一般的になっており、営業の役割も「顧客の課題解決に集中する」方向へシフトしています。

リードから商談へ

マーケティング部門が獲得した「リード(見込み客)」に対し、インサイドセールスが電話やメールでアプローチを行い、アポイントメントを獲得します。営業(フィールドセールス)は、インサイドセールスから引き継いだリードと実際に商談を行い、契約獲得を目指します。

商談

商談では、単なる製品のPRではなく、顧客の課題やニーズを深くヒアリングすることに重点を置きます。その上で、自社製品やサービスがどのように課題解決に貢献できるかを提案し、顧客の合意を得て契約へと進めます。

クロージング・契約締結

顧客の契約意思を確認するクロージングと、最終的な契約手続きを行う契約締結は、営業活動の最終工程です。顧客の疑問や不安に丁寧に答え、安心して契約できるようサポートします。

カスタマーサクセスと営業の密な連携が、会社全体の成長を加速させる

カスタマーサクセスと営業は、事業の成長に欠かせない両輪であり、密な連携が非常に重要です。

営業が新規顧客と契約を結んだ後、顧客の課題や期待値といった詳細な情報をカスタマーサクセスへ正確に引き継ぐことで、顧客はスムーズにサービスを使い始めることができます。これにより、「話が食い違っている」「何度も同じことを説明しなくてはいけない」といった不満を防ぎ、顧客との信頼関係を築くことができます。

また、カスタマーサクセスから営業へのフィードバックも重要です。実際にサービスを利用している顧客の声を吸い上げて営業に共有することで、営業は「どのような顧客がサービスに定着しやすいか」「どのような課題を持つ顧客がアップセルにつながりやすいか」といった知見を得ることができます。この情報は、営業がより質の高いリードを獲得し、効率的に商談を進める上で不可欠なものとなります。

このように、営業からカスタマーサクセスへ、そしてカスタマーサクセスから営業へという双方向の連携が、顧客満足度向上と事業拡大の両方を実現します。

営業からカスタマーサクセスへの転職は、経験を活かしつつ新たな専門性を磨くチャンス

「営業」の経験は、カスタマーサクセス職で大いに役立ちます。
特に、以下のようなスキルはそのまま活かすことができます。

  • コミュニケーション能力・ヒアリング力: 顧客の課題を深く理解し、信頼関係を築く力は、カスタマーサクセスの業務の根幹です。
  • 提案力: アップセル・クロスセルはもちろん、顧客の成功を促すための具体的な施策を提案する力は、営業時代に培った経験が活かされます。

しかし、営業からカスタマーサクセスへの転職を成功させるには、それに加えて新たな専門性を身につける必要があります。
現在のカスタマーサクセス職では、顧客の利用データを分析し、解約予兆を察知したり、LTV(顧客生涯価値)を最大化するための戦略を立てたりといったデータに基づいたアプローチが不可欠です。これらのスキルは営業時代にあまり使う機会がなかったかもしれませんが、意欲的に学ぶ姿勢をアピールすることで、転職を有利に進められるでしょう。
営業で培った「顧客を成功に導く」というマインドを土台に、データ活用などの専門性を高めていくことで、市場価値の高いカスタマーサクセスとして活躍することができます。

まとめ:カスタマーサクセスと営業、それぞれの役割を理解してキャリアを考える

カスタマーサクセスと営業は、『顧客との関係性を重視する』という共通点はあるものの、目的やKGI・KPI、仕事内容に明確な違いがあります。
特に営業職の経験は、コミュニケーション力や提案力といった面でカスタマーサクセス職でも大いに役立ちます。しかし、営業からカスタマーサクセスへのキャリアチェンジを成功させるには、顧客の利用データ分析やヘルススコア管理など、データに基づいた専門的なアプローチを積極的に学ぶ姿勢が不可欠です。
「顧客の成功を心から願う」というマインドを土台に、新たな専門性を身につけることで、市場価値の高いカスタマーサクセスとして活躍できるでしょう。

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