カスタマーサクセスとカスタマーサポートって何が違うの?似ているようで違う2職種を解説!

昨今SaaS(※)を提供する企業の間で需要が高まっている『カスタマーサクセス』は、顧客のビジネスを成功に導くための役割や職種、活動を指します。では、名前の似ている『カスタマーサポート』とは何が違うのでしょうか?どちらも顧客のビジネス上の課題を解決するという役割は同じですが、解決方法や顧客との向き合い方に大きな違いがあります。こちらの記事では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いについて解説します。

※Software as a Serviceの頭⽂字を取った略称。すべての機能をクラウド経由で利用できるソフトウェアの提供形態

カスタマーサクセスとは

カスタマーサクセスの目的と顧客に対する姿勢

カスタマーサクセスとは、顧客のビジネスの成功のために提供している、自社の製品やサービスの価値を最大限に引き出せるよう、顧客を支援する活動や職種です。カスタマーサクセスの目的は、自社の製品やサービスの提供を通じて顧客がビジネス上の目的を達成することによって、結果的に自社の収益を上げていくことです。顧客が製品を活用するために、企業側から顧客のチームにオンボーディングをするなど能動的なアクションをし、顧客が気づいていない潜在的な課題も引き出しながら事業を成功に導きます。

カスタマーサクセスのKGI・KPI

カスタマーサクセスのKGI(重要目標達成指標)としては、顧客が企業との契約開始から終了までの間に、どの程度企業に利益をもたらしたかを示す『LTV(ライフタイムバリュー)』を重視します。LTVが重視される理由は、SaaS市場におけるサービスの飽和が挙げられます。マーケティング費用などの新規顧客獲得にかかるコストが増加傾向のため、新規顧客を獲得するには、一度獲得した既存顧客を維持するよりもはるかに高いコストがかかります。そのため、企業が効率的に利益を上げるために、新たな顧客を開拓する従来の営業モデルを脱却し、カスタマーサクセスが担う、既存顧客のロイヤリティを高めてLTVを向上させる活動に重きを置き始めているのです。カスタマーサクセスの具体的なKPIとしては、一般的に以下の指標が用いられます。

・チャーンレート(解約率)

チャーン(Churn)とはかき混ぜる、激しく動くという意味があり『移り気な顧客』『他社に乗り換えする顧客』をチャーンと表現するようになりました。レートは割合で、チャーンレートは解約率という意味で使われます。解約とはサービスの契約終了、退会はもちろん、有料会員から無料会員になった場合や、契約アカウント数が減少した場合も解約として扱います。チャーンレートの計算式は『ある一定の期間中に解約した顧客数÷当初の顧客数×100=チャーンレート率(%)』で算出されます。チャーンレートを減少させる施策としては、顧客の行動データなどから解約に繋がる行動を早めに察知してフォローをしたり、ユーザーアンケートなどから顧客の要望を汲み取り自社製品やサービスの改善をしたりといった方法があります。一般的に、チャーンレートは1か月あたり3%以内であれば問題なく、チャーンレートが3%以上の場合は早めに対策を打つべきだと言われています。

・リテンションレート(継続率、定着率)

リテンションには、維持する、保持するという意味があり、リテンションレートは、主にSaaS業界では顧客を維持する割合、つまり継続率や定着率として使われています。リテンション率の計算式は『一定の期間終了時の顧客数÷期間開始時の顧客×100=リテンション率(%)』です。この計算式で継続顧客率が導き出されます。リテンション率によって、自社の既存顧客を維持するポテンシャルが数値化されるので、数値が下がった場合迅速にフォローできます。

・アップセル率・クロスセル率 

アップセルは『より単価の高い製品やサービスを契約・購入してもらうこと』、クロスセルは『特定の製品やサービスを契約済みの顧客に対し、関連するサービスを追加で契約・購入してもらうこと』を指します。

アップセルを提案するのは、複数契約や乗り換え時の割引きや、上位プランのトライアルといった方法が有効です。クロスセルの例では、関連サービスのレコメンド、新商品の情報提供などがあります。

ただし、顧客が必要としないむやみなアップセル、クロスセルの提案は、顧客の不信感につながり、解約リスクを高める要因となります。製品やサービスの利用頻度が高い顧客や、機能が多い上位のプランの活用によって更なる事業の成功が見込まれる顧客を見極めて提案することが大切です。

・NPS®(顧客ロイヤルティを測る指標)

カスタマーサクセスでは、NPS(Net Promoter Score)といわれる指標が使われます。NPSは顧客が企業や製品やサービスに対してどの程度愛着や信頼を持っているかを数値化したものです。取得方法は、アンケート調査で『この製品(サービス)をどなたかにおすすめするとして、おすすめの度合いを0〜10の点数でつけてください』という質問に答えてもらいます。その結果が9〜10点であれば『推奨者』、7〜8点であれば『中立者』、6点以下であれば『批判者』に顧客を分類します。結果を用いて、それぞれの立場の顧客に対してどのようにアクションするか、具体的な施策に落とし込みます。

カスタマーサクセスの業務内容

・オンボーディング

製品やサービスを導入しただけでは、顧客が充分に使いこなせないケースが想定されます。オンボーディングでは、そういった顧客に対して、製品やサービス利用の方法のレクチャーから、安定した運用をできるまでの支援をします。具体的には、個別に定期的な活用勉強会の開催や、利用マニュアルの作成などを実施します。オンボーディングのゴールは、顧客が製品やサービスの使用方法を理解し、運用した上で『契約してよかった』と実感し『さらに製品やサービスを活用して事業の成功を目指したい』と感じてもらうことです。

・アクティブ化

アクティブ化とは、製品の利用頻度や利用時間、使用している機能などのデータから、顧客の製品理解度を把握し最適化した提案や支援をすることです。これによって顧客が製品やサービスの価値をより深く実感できるようになります。また、NPS®(ネットプロモータースコア)や個別のヒアリングを通して、製品やサービスへの不満や不安を聞き取ります。不満や不安をいち早く察知して適切なフォローをすることで解約を防ぎ、チャーンレートの低下につなげます。

・アップセル/クロスセルの獲得

製品やサービスの活用によって顧客の目的を達成した場合、更なる成功に顧客を導くため、より高単価のサービスやオプション、関連商品の契約や購入を提案します。先述の通り、アップセルは『同一製品・サービスに関するもの』、クロスセルは『提供している製品・サービスとは別製品の導入』を指しますが、どちらも顧客に必要とされるタイミングでの提案が必須です。必要のないアップセル・クロスセルの提案は顧客の信頼を失うことにつながり、解約に至る可能性があります。

カスタマーサポートとは

カスタマーサポートの目的と顧客に対する姿勢

カスタマーサポートの目的は、『サポートセンター』や『問い合わせ窓口』などを通して顧客の疑問や不満を解決し、顧客満足度の向上や自社の信頼獲得につなげることです。カスタマーサクセスは顧客からのアクションの有無を問わず、企業側から能動的に顧客と接点を持ちますが、カスタマーサポートは、製品やサービスに対して疑問や不満が顕在化している顧客からの問い合わせに対応するなど受動的に接点を持ちます。顧客の要望を瞬時に汲み取り、適切な提案をするため、自社の製品やサービスへの深い理解や、コミュニケーション能力が重要になります。

カスタマーサポートのKGI・KPI

カスタマーサポートは『顧客の疑問・不満解消』をKGIとします。顧客が製品やサービスを使うなかで発生した疑問やクレームに対して、サポートセンターや問い合わせ窓口を通して、迅速かつ的確な回答をします。そのため、カスタマーサポートによって、顧客が製品やサービスを期待通りに使える状態がカスタマーサクセスのゴールと言えるでしょう。カスタマーサポートの具体的なKPIとしては、一般的に以下の指標が用いられます。

・課題解決時間

課題解決時間とは、顧客が問い合わせをしてから解決までにかかった時間の合計を表します。複数回やりとりがある場合には、それらの時間の合計を用いて平均課題解決時間を算出します。計算式は『解決までの合計時間÷問い合わせ件数=平均解決時間』です。課題解決までの時間は短いに越したことがありません。長時間の対応は顧客の負担が大きくなり、解約率を高める要因になりかねません。オペレーターの業務効率を高めるといった意味でも大切な指標になります。

・課題解決率

受け付けた問い合わせが最終的に解決した割合を課題解決率として表します。基本的にカスタマーサポートでは、問い合わせにはすべて回答することが求められます。課題解決率の計算式は『解決した問い合わせ数÷問い合わせ数×100=課題解決率(%)』で算出されます。

・一次応答時間

一次応答とは顧客からの問い合わせに対して、最初に応答するまでの時間のことです。平均一次応答時間の計算式は『最初の応答をするまでの合計時間÷問い合わせ件数=平均一次応答時間』で算出されます。迅速かつ丁寧に一次応答することで、顧客に安心感を与えられます

・応答率

応答率とは、電話での問い合わせの際に受電した件数に対してオペレーターが応答した件数の割合を指します。応答率の計算式は『応対した件数÷入電した件数×100=応答率(%)』で算出されます。電話で問い合わせを受ける場合、『放棄呼』と呼ばれる、コールセンターにかけられた電話がオペレーターにつながる前に待ちきれずに電話を切ってしまう、またはコールセンターに電話が集中してシステムが落ちるなどの理由で切断された、応答ができなかった呼び出し数の減少もKPIに含まれます。

・処理時間

処理時間とは、カスタマーサポート担当者が1つの問い合わせを受けてから対応を終えるまでにかかる時間のことです。電話応対の場合は、通話開始から通話終了までを処理時間として扱います。平均処理時間の計算式は『平均通話時間(オペレーターが顧客と通話している時間の平均)+平均後処理時間(顧客との通話が終わった後の処理時間の平均)=平均処理時間』で算出します。

平均処理時間の短縮は、オペレーターの業務効率の向上につながります。ただし、処理時間は短いほど良いとは限りません。処理時間が短いと、顧客に不満が残る対応になったり対応にミスが起きたりする可能性があるためです。顧客の満足が得られ、担当者のリソースを圧迫しすぎないバランスの良い対応時間を心がけましょう。

カスタマーサポートの業務内容

・問い合わせ対応

製品やサービスを利用するなかで生じた、顧客の疑問点や不満の解決やクレームへの対応で早期の課題解決を目指します。問い合わせ窓口の種類は企業や製品によって、メールや電話、チャットなど多岐にわたります。カスタマーサポートは企業の窓口として機能しているため、カスタマーサポート担当者の対応が企業のイメージに直結します。どんな顧客の声にも真摯に対応する姿勢が求められます。

・FAQ作成

カスタマーサポートのサービスの効率化や品質向上を目的にFAQを作成することも業務の1つです。日々集まる顧客からのさまざまな疑問や意見をFAQとしてまとめることで、担当者の経験値に関わらず回答の品質を一定に保てる、カスタマーサポート内の知見を一元管理できるなどのメリットがあります。

・リピート購入の促進

製品やサービスを契約・購入済みの既存顧客を相手にするため、満足度の高いサポートを提供できれば、より高単価なサービスの契約や他製品の購入といった収益増につながることもあります。

・顧客の声を社内に届ける

カスタマーサポートに届いた顧客のクレームや意見などを社内の他部門にも共有することで、企業は顧客のニーズに合ったより良い商品やサービスの開発に力を入れられます。顧客の声を製品やサービスに反映するためには、部門を超えて連携する体制づくりが必要不可欠です。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いとは?

カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、どちらも『顧客の課題を解決する』という役割は似ていますが、顧客へのアプローチ方法が大きく異なります。

カスタマーサクセスは自ら顧客へヒアリングなどのアプローチをし、潜在的な課題の解決を含め顧客を成功に導くという能動的な姿勢が求められます。顧客が成功を得るまで定期的な支援をするため、顧客と長期的な関係を構築する必要があります。一方、カスタマーサポートは顧客の顕在的な課題を解決する受動的な姿勢で、顧客との関係は単発的です。

このように、製品やサービスの使用フェーズや、期待できる顧客のLTVに応じて、それぞれの役割を分担します。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの将来性は?

カスタマーサクセス、カスタマーサポートどちらの職種も今後市場でニーズが高まる役割や職種、活動だと言われています。理由としては、SaaS業界を筆頭にサブスクリプションモデルが普及しており長期的な契約が企業の収益に直結するため、カスタマーサクセスやカスタマーサポートが活躍する場が増えてきていることが挙げられます。

サブスクリプションモデルは、従来の買い切り型ビジネスモデルよりも幅広い顧客を獲得できる一方で、利用開始・契約のハードルが低い分、他社サービスへの乗り換えも容易であり、サービス解約のリスクも高まります。そのため、契約に重きを置いた営業活動から、顧客の継続利用に比重を置いた活動に変化し、カスタマーサクセスやカスタマーサポートの必要性が増しています。また、便利なクラウドサービスが広まり従来に比べて低コストでシステム開発できるようになったため、SaaS企業が増えたことで市場が飽和し、新規顧客の獲得が難しくなっている、特にカスタマーサクセス職の『既存顧客のロイヤリティを高めてLTVを向上させる活動』が益々求められていくと考えられます。

カスタマーサクセスとカスタマーサポート間でキャリアチェンジは可能?

しっかりと顧客に向き合い要望を汲み取るスキルや、分かりやすく製品やサービスの機能を説明するコミュニケーション能力など共通するスキルも多いカスタマーサクセスとカスタマーサポートの仕事は、キャリアチェンジがしやすいと言えます。ただし、カスタマーサクセスに求められるデータを活用した顧客への提案や、ロイヤリティの高い顧客に向けたアップセル・クロスセル提案、顧客の潜在的なニーズを掘り起こすスキルなど、カスタマーサクセスでは一歩踏み込んだ顧客対応が必要な場面があります。カスタマーサポートからカスタマーサクセスにキャリアチェンジを希望する場合は、その点を理解しておくと良いでしょう。

未経験からキャリアチェンジしやすいのはカスタマーサクセスかカスタマーサポートか?

カスタマーサクセス、カスタマーサポートどちらの職種も未経験からのキャリアチェンジは可能といえます。カスタマーサポートは、比較的歴史の長い職種で一般的に『コールセンター』『お客様窓口』『カスタマーセンター』などの呼び名で顧客対応をしてきました。すでに企業の中での組織体制が整っており、社内マニュアルが充実していたり、新人研修を始め、定期的なスキルアップ研修があったりと体系的に技術向上を目指せる環境が整っている場合が多いです。

カスタマーサポートに関しては、比較的歴史が浅い職種であるため、業務内容や求めるスキルが企業によって異なり、部署の立ち上げ期メンバーとしての求人も散見されます。ただし、『カスタマーサポートとカスタマーサクセスの将来性は?』の章で述べたように市場でのニーズは高まっており、未経験者応募可能の求人募集数は増えてきています。たとえ未経験でも、営業職で培った顧客対応力や、マーケティング職で培ったデータ分析力など、カスタマーサポートで活かせる経験をアピールすることで採用されるチャンスがあります。興味があれば積極的にチャレンジしてみましょう!

まとめ

顧客の課題を解決するというミッションを持つカスタマーサクセスとカスタマーサポートの仕事は似ている部分がありますが、顧客との向き合い方や関係性など異なる部分も多いです。どちらも市場ニーズが高まっている職種ですが、特に顧客の満足度を高め自社の収益を上げていくカスタマーサクセス職は、今後業界や業種、企業規模を問わず不可欠な職種になるでしょう。

<関連記事>

コメントを残す